self‐consolation R15

1/3

694人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ

self‐consolation R15

 食後、使った食器を洗ったら、あとは自由時間だ。そのままリビングで一緒にテレビを見るときもあれば、各々が自室にこもってやりたいことをやるときもある。今晩はふたりとも後者を選んだ。  有はデスクの上に「社会保険労務士」のテキストを広げた。勤めている会社の人事部で、この資格を取ることを推奨されているのだ。合格率は十パーセント。取得の難しい資格だが、持っていて損はない。  有は勉強に没頭した。気が付くと日付が変わっていた。テキスト類を片付け、パジャマと下着を持って浴室に向かった。  浴室は洗面所の奥にある。脱衣所に入る前に、近くにある亘の部屋のドアに視線が行く。引き戸のドアは、指一本分の隙間が空いていた。ゆっくり閉めないとぴったり閉まらないドアなのだ。 「有」  小さい声だったがたしかに聞こえた。  有は引き戸に手をかけた。亘、と呼ぼうとして、慌てて舌を止めた。  ゆう、ゆう、と何度も掠れた声が聞こえてくる。彼がいま何をしているのか、想像するのも容易かった。部屋のなかは見えない。     
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

694人が本棚に入れています
本棚に追加