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anxiety
亘と深いキスを交わすようになって一か月が経った。有はキスのあと、その先を望む衝動を抑え込めるようになった。
亘の自慰らしき現場に遭遇してからというもの、有の「やりたい」という気持ちは、多少落ち着いた。自分に対して亘がちゃんと性欲を覚えてくれている、という実感が湧いたせいだろう。
もうひとつ理由がある。
十一月に入ったとたん、有の仕事が忙しくなり、プライベートなことで考え込む余裕がなくなった。
有の勤める会社は大手IT企業だった。
自社で製作したソフトやアプリの販売と、エンジニアやIT業界に精通した営業職の人材を、他社に派遣する業務も行っている。
入社して七カ月が経ち、ルーティンワークの内容を理解してきたところで、一気に仕事量が増えた。煩雑な事務処理や、新しく入った従業員のオリエンテーションなど、やらなければいけない仕事は多岐にわたっている。残業も週に三日はある。帰宅が二十二時を過ぎるときは外で食べるようにしていたので、自炊の回数が大幅に減った。
亘も同じだった。仕事に慣れてきた今は、深夜に帰宅することもある。
亘はアパレルメーカーの営業職だ。取引先との接待で飲んで帰ってくることも多い。
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