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それに比べ俺は――と、有は自分の顔を触った。有は自分の容姿に自信がなかった。至って普通のルックス。瞼の肉は薄いが、一重瞼だ。鼻はどうだろう――形は悪くないと思うが、亘のようにスッと通った鼻筋でもない。
亘のほうがずっとカッコいい。意志の強そうな眉、若干つり気味の目も、引き締まった口元も男らしい。でも笑うと顔が崩れて可愛い。愛嬌がある。
――そこまでカッコよくなくてもよかったのに。
職場は女性だらけなのだ。好意を寄せて来る人間も多いだろう。必然的にライバルが増えるのだ。
豚丼をやっと食べ終え、壁の時計に目をやった。もう二十三時を過ぎていた。食器を洗ってから浴室に向かった。廊下を歩いている途中、ガチャガチャとドアの鍵を開ける音がした。有は反射的に玄関に向かった。
今日はいつもより亘の帰宅が早い。自然と顔がにやけてしまう。
有の口が「わ」の字を象ったとき、玄関のドアが音を立てて開いた。
「ただいま」
気怠そうな声を出して、亘が三和土に入ってきた。相当飲んだようだ。顔が赤らんでいるし、足がふらついている。
「大丈夫かよ」
呆れと心配半々で、有は上がり框まで駆け寄った。そこで初めて、ドアの向こう側に人がいることに気が付いた。十センチ程度の隙間から、きっちり化粧を施した女性が、慌てたように会釈してくる。彼女のぎこちない笑みに落胆の色が混じっている。
有は嫌でも察してしまった。
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