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亘が覇気のない声で、再度確認してくる。
「幻滅してないよ。むしろ、駄目なところ見せてくれて嬉しい」
自分は亘の、表向きの顔しか見てこなかった。彼の素の顔を発見した気がして、嬉しい。
「はは、そういってくれると思った。有は優しいから」
有の膝から、亘が顔を上げた。嬉しそうに微笑みかけられ、有の鼓動は跳ねた。
「そうかな」
「誰にでも気を遣ってるだろ? 嫌な思いをさせないように。だから人事に配属されたんじゃないか」
亘がかったるそうに体を起こしてベッドから下りた。
「あーやべえ。スーツ脱ぎっぱなしだ」
狭いフローリングに散ったスーツやワイシャツを、彼が一枚ずつ拾い上げていく。
「クリーニングに持って行こうか。俺も冬用のコート出したいし」
有が申し出ると、亘がぱっと顔を輝かせた。
「うわ、助かる、それ。俺のコートも頼んでいい?」
「いいよ。亘はもう少し寝てなよ」
見るからに亘は怠そうだ。今日は外出も家事も無理だろう。
有もベッドから下りて、クローゼットから亘のコートを引っ張り出した。去年の冬から使っているグレーのウールコートだ。
「ありがとう」
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