Honest

4/4

693人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
 亘が後ろから、軽く抱きしめてくる。性衝動を起させない、友達同士がじゃれるようなハグ。それを寂しいと思ってしまう。 「あと、シジミの味噌汁も作って?」  調子にのって亘が頼んでくる。でも、こういうところも可愛いと思ってしまった。それに、味噌汁が飲みたくなる位には、食欲が出てきたということだ。ほっとした。 「ちょっとは遠慮しろよ」  わざと呆れた声を出して、有は亘の腕を振り払った。  亘のコートとスーツを腕に抱えて、有はリビングに向かった。テーブルにそれらを載せ、念のためポケットの中に何か入っていないかチェックする。スーツの上下には何も入っていない。コートのポケットを探ってみると、果たして、レシートの紙切れが一枚、入っていた。コンビニかスーパーのものだろう、と軽く目を通したのに、予想外の店名が目に入って来た。有の指は硬直した。 『ホテル いちごみるく』 レシートの一番上には、そんな名前が印字されていた。咄嗟に、レシートの日付を見ると、今年の三月十五日になっていた。  自分たちが付き合い始めた日は三月十八日だ。しっかり記憶している。間違えるわけがない。  ――俺と付き合う数日前に、違う誰かとラブホに行ったのか?  いちごみるく、なんていかにもな名前だ。ラブホ以外あり得ない。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

693人が本棚に入れています
本棚に追加