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たしかその日に、大学の卒業式があったはずだ。式が終わったあと、ゼミの仲間と飲みに行った――そこまで思い出し、有はスマホを操作した。カレンダーのスケジュール帳を開くと、やはりその日は大学の卒業式、飲み会の予定が入っていた。次にLINEを開いて、三月十五日に誰とどんなやり取りをしたか確認した。まず亘とのトーク画面も見てみるが、三月十五日はトークの履歴がなかった。三月十八日の十四時に亘から『部屋に行っていい?』とメッセージが届いている。数分後に自分が返事をしていた。『OK』と一言。その一時間後に、有は亘から告白されたのだ。
次に夏堀真紀とのトークを開いた。彼女とは滅多にLINEでやり取りをしないので、スクロールしてすぐに三月分のトークに行き着いた。
『最後の飲み会なんだからちゃんと出てよ』
『出るよ』
『飲み代、ひとり六千八百円。いつ払ってくれる?』
『四月でいい?』
三月十五日はこの二件の対話だけだった。
有はゼミの飲み会を断ることが多かった。だからこの日、彼女がメッセージを送ってきたのだろう。飲み代は後日払った。お互いの職場が近いから、四月に入ってすぐに、昼休みにコーヒーショップで待ち合わせをして、手渡しした。
「ああもう……」
有は苛々してきた。肝心なことを思い出せない。亘はあの日、飲み会に来ていたはずなのに、彼がどこの席に座っていて、どんな話をしていたのか、全然覚えていなかった。宴の途中で帰ったのか、長い時間中座したのか、最後までいたのかさえも。
有は亘のことが好きだったし、いつも彼のことを目で追っていたというのに。
でも、亘が飲み会を行った居酒屋から「いちごみるく」に場所を移したのは確かなのだろう。有たちが通っていた大学は、渋谷駅から徒歩十分の場所にあったのだ。
「本人に聞くしかないか」
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