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「そうだよ。でも有は特別。いつも一緒にいたい。――そうだ、部屋を一緒にしないか」
いいことを思いついたように、亘が弾んだ声で言う。
「もうひとつ部屋があるじゃん。倉庫みたいになってるけど。そこを俺たちの寝室にしよう。で、この部屋を物置にすればいい」
亘が床を指さした。
「別にいいけど――時間かかるよ」
寝室が一緒になるのは嬉しい。朝と夜、確実に顔を見ることができる。毎朝起きてすぐに亘の顔にキスができる。
「今からやろう――あ、シジミの味噌汁飲んでからな」
ふたりはキッチンに移り、シジミの味噌汁を作ることにした。
有はシジミの砂抜き、亘は出汁をとる係だ。
ケトルに水を入れお湯を沸かし、耐熱ガラスのボウルに熱湯を注いだ。そのなかに、シジミを一気に入れる。
「え? そんなことしていいの? 砂抜きって塩水でやるんじゃないのか」
亘が驚いたように目を見開いた。
「熱湯でもできるよ。熱くて貝が驚くんだ、ほら」
言っている間に、貝が一斉に開いた。
「すごいな。よく知ってるな」
本当に感心したように褒められ、有はこそばゆくなった。
「伯母に教えてもらったやり方なんだ」
「あー伯母さんね」
亘の表情が一変した。皮肉るような、含みのある言い方をされ、有は気になった。
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