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片付けを終えたあと、それぞれのシングルベッドを運び、くっつけて並べた。
「急に同棲してるって感じになったな」
腰に両手を当ててベッドを眺めていた亘が、心なしか嬉しそうに笑った。
有は亘に微笑み返したあと、自分のほうのベッドの端に腰を下ろした。四時間ぶっ通しで部屋の片づけ、掃除、家具の移動を行ったのだ。疲れている。
「有は嬉しくない?」
「嬉しい」
間髪入れずに返事をする。本当に嬉しい。
「顔があんまり嬉しそうじゃないけど――まあ仕方ないよな。親御さんの形見、盗まれてたんだから」
亘が慰めるように、有の前髪をさわさわと撫でた。
「これからどうする?」
「どうもしない。具体的に何を盗まれたかもわからないし」
ブランドのバッグも宝飾品も、それなりに資産価値があったのかもしれないが。有にはどうでもよかった。
「形見っていっても――母さんが死ぬ間際に買い込んだものばっかだったし」
話しているうちに、胸が絞られるように痛んだ。急に切なくなる。
――宝くじなんか当たったから。
普通の暮らしができればそれでよかったのだ。大金を手に入れて、母も父も――何もかもがおかしくなった。
有は思考を中断させた。これ以上考えると気が滅入っておかしくなりそうだった。
「鍵は替えるよ」
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