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reminiscence2『persona』
亘とは学科も同じだった。だが、彼と話す機会は一向に訪れなかった。
一年の間は教養科目の単位取得がメインになる。学部全員――二百を越える人数が大教室で講義を受けるため、彼の隣になることも、彼を見つけることも容易くはなかった。
有は自分と同じようなタイプ――地味で決して社交的とは言えない男数人と仲良くなり、彼らと行動を共にするようになった。
亘は常に目立つタイプの男女に囲まれていて、カフェテリアや廊下で遭遇しても、有から話しかけられる状況ではなかった。
亘の事がちょっと気になりつつも、有は彼と挨拶さえ交わさなかった。
二年のときに、有は真紀と付き合い始めた。彼女から告白される一か月前あたりから、予兆はあった。講義を受けていると、気が付けばいつも彼女が有の隣に座っていたのだ。
「なんで俺?」
好きだ付き合って、と言い募る彼女に理由を聞くと、予想外の答えが返って来た。
「手堅い感じがするから」
「手堅いって」
「大学卒業したらちゃんと就職して、定年まで勤めあげる感じ」
ぱっちりの目玉でジッと見上げられ、断るのはもったいないと感じた。
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