reminiscence2『persona』

1/8

693人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ

reminiscence2『persona』

 亘とは学科も同じだった。だが、彼と話す機会は一向に訪れなかった。 一年の間は教養科目の単位取得がメインになる。学部全員――二百を越える人数が大教室で講義を受けるため、彼の隣になることも、彼を見つけることも容易くはなかった。 有は自分と同じようなタイプ――地味で決して社交的とは言えない男数人と仲良くなり、彼らと行動を共にするようになった。 亘は常に目立つタイプの男女に囲まれていて、カフェテリアや廊下で遭遇しても、有から話しかけられる状況ではなかった。  亘の事がちょっと気になりつつも、有は彼と挨拶さえ交わさなかった。 二年のときに、有は真紀と付き合い始めた。彼女から告白される一か月前あたりから、予兆はあった。講義を受けていると、気が付けばいつも彼女が有の隣に座っていたのだ。 「なんで俺?」  好きだ付き合って、と言い募る彼女に理由を聞くと、予想外の答えが返って来た。 「手堅い感じがするから」 「手堅いって」 「大学卒業したらちゃんと就職して、定年まで勤めあげる感じ」  ぱっちりの目玉でジッと見上げられ、断るのはもったいないと感じた。     
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

693人が本棚に入れています
本棚に追加