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緊張していた。捲し立てるように有が言うと、亘は一瞬きょとんとした顔をしてから、破顔した。
「そんな、礼を言われるほどのことしてないよ。俺、リーダーだし」
彼は少し照れたようだった。頭を掻く仕草がやけに子供っぽくて、有はほっとした。彼も自分と同じ年齢なのだと感じた。
「そうだよ、穂村くん。亘はゼミのリーダーなんだから。好きに使ってやって」
隣にいた彼女が、おどけた様に笑った。
彼女は長い髪を栗色に染めていた。目鼻立ちのはっきりした顔にマッチしている。
「次の講義同じだよな? 一緒に行こうぜ」
当たり前のように声をかけてくれる。有がその場にいたから誘ってくれただけだ。だけど嬉しかった。
これが、亘に好感を持つきっかけになった。
亘と話す回数が日を追うごとに増えていき、ゼミのない日も有は彼と――正しくはゼミの仲間とつるむことが多くなっていった。
彼らとは同じゼミに入っているだけあって話が合うし、一緒にいて有は自然に振舞えるようになっていた。ただ、一人だけ、有には苦手な人物がいた。
皆で楽しくしゃべっていても、彼が会話に入ってくると必ず話題が「親の愚痴」になる。
その日もゼミの仲間同士で、昼食を摂っていた。食堂の細長いテーブルに座っていた。有の向かい側にいたのは、苦手な彼だった。
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