reminiscence2『persona』

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「うちの親、マジでうぜえ。一人暮らしもさせてくれないし。毎日口うるさくて喧嘩ばっかりだよ。昨日なんてさ……」  周りも彼の話に適当に合わせる。 「うちの親だってそうだよ。もう二十歳過ぎてんのに、うるさいよぉ。過干渉ってやつ」  親と同居派の友人たちは、なにかしら親に対するうっ憤があって、それを吐き出していく。戸惑うこともなく。  有は黙って聞いていた。口を堅く閉じて。  ――親がいるから、愚痴れるんだ。  話が長引けば長引くほど、有はその場にいるのが苦しくなっていく。 「穂村はいいよな。両親とも転勤で家にいないんだろ? 羨ましい」  変わってほしいなあ、なんてことまで言われ、有は衝動的に席を立った。  ゼミ仲間に、自分の親のことを話した覚えは微塵もなかった。話したことがあったのはただ一人――真紀だけだった。  ――あれだけ言うなって言ったのに。  彼女を家に招いた際、親が転勤で家にいないと説明したことがあった。本当のことは誰にも言わない方がいい、と伯母に助言されていたからだ。たしかにその通りだと思った。  心を落ちつかせようと、食堂から外に出て、目の前に並んだベンチに腰を掛けた。     
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