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晴れていてよかった。梅雨が明けたばかりの空は、潔いほど水色一色だった。意識を空に集中させていると、いきなり後ろから声をかけられる。有は慌てて背後を見た。
「穂村、昼飯もういいの? 食べかけだけど」
亘がベンチ越しに立っていた。
有の肩からは力が抜けた。
「あ――食べるよ。すぐ戻るから」
「じゃあ俺もちょっと休憩」
亘がベンチに回り込んで、有の隣にどかっと座った。
「なんか疲れたなあ」
独り言にしては大きい声を出して、亘がゆっくりと伸びをした。
「何かあったの?」
彼の口から「疲れた」とかマイナスの科白を聞いたのはこのときが初めてだった。
「あったよ。ディスカッションで立て板に水の如く喋ってたやついただろ? 調整するのが大変だった」
亘が苦笑しながら有の顔を見た。
「ああ、たしかに今日はバトルって感じだった」
今日のディスカッションは、たしかに大変だった。他者の意見を一切聞かない学生がグループ内にいたのだ。持論を展開し続け、同意が得られないとなると、よけい周りに口を挟む余地を与えなかった。それを諫めたのが亘だった。
「石動はなんでリーダーになったんだ? 面倒だろ」
有は素朴な疑問を口にした。
ゼミのリーダーなんて自ら進んでやりたがる奴なんていない。
「自分のため、だな。人に従うより自分で仕切ったほうがストレス溜まらないんだ」
「へえ」
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