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心配と好奇心が混ざったような表情で、真紀が有の顔を見た。
「うまくいってるよ。喧嘩もしないし」
セックスがないだけだ。あとは本当にうまくいっている。
「そういえば――」
真紀が突然、思い出したように言った。声を潜めて話を続ける。
「エッチといえばさ――大学のとき、石動くんに聞かれたんだよ、わたし。穂村くんと最後までしたことあるかって」
「――へっ? なんだよその質問」
「だよねえ」
「大学のときっていつ頃? どういう経緯で?」
「四年の夏休み明けだったかな……経緯までは覚えてない」
亘の過去の行動に首を傾げたくなる。夏休み明けということは十月ぐらいだ。亘が有の自宅に遊びにくるようなった頃だが――。
「そのときは深く考えてなくて、あるよって答えちゃったんだけど。それがまずかったかも?」
「いや――それは違うだろ」
亘は付き合う相手に純潔を求めるタイプではない。彼だって女性経験は豊富なはずだ。大学の一二年のころは、彼女を途切らせたことがなかった。
「あるって答えたとき、亘はどんな反応をしたんだ?」
「そりゃそうだよなって、笑ってた」
――笑ってた。
思いがけず、その言葉が胸に冷たく刺さった。ちょっとくらい妬いてほしかった。
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