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自分とは正反対だと思った。有はあらかじめ決まったことを従順に遂行するほうが楽なのだ。
「でも、頑張り過ぎなんじゃないの」
疲れた、と口を突いて出てしまうほどには。少し亘のことが心配になった。
「じゃああとでレジュメ作るの手伝えよ」
ちょっと意地悪い笑みを浮かべて、亘が有の肘をぐっと押してきた。
「やるよ」
有は素直に答えた。いつもゼミの活動では、亘にまかせっきりだった。彼に対し、後ろめたさのようなものがあった。
「手伝うってのも変だろ。一緒にやろうよ」
「どうしたんだ? 急にやる気になって」
亘が可笑しそうに有の顔を覗き込む。
「さっき疲れたって言ってたから」
話しているうちになぜか分からないが気恥ずかしくなった。語尾が尻すぼみになる。
「ありがとう、気遣ってくれて。でも無理してるわけじゃないんだ」
「損な役割とか、思ってない?」
「思ってない。俺にうってつけだと思う。リーダーは。――ほら、あの水まき用のホース」
急に亘が、前方を指さした。そこには花壇に水を撒いている用務員の男がいた。彼は水道から引いて来た長いホースを握っている。
「あれがただの太いコードだったら困るだろ」
亘が当たり前のことを言った。
「そうだね。水を撒けないね」
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