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「俺がリーダーになったのもそんな感じ。与えられた役割を演じてるだけ」
「演じてる」
「そう、演じてる。俺がグループワークで何もしなかったらさ、周りは絶対こういうだろ? 『どうしたの? 具合でも悪い?』って。心配されるのも鬱陶しいじゃん」
「俺になにかできることってある?」
思わず聞いていた。やっぱり彼は、ゼミのリーダーという役割に疲れているのではないか。そんな予感がした。
「穂村は聞き上手だな」
亘に話を逸らされ、有はムッとした。
「――そうかな」
「相槌打つのを忘れるぐらい、ちゃんと人の話を聞いて考えてる。いつも」
ディスカッションのことを言っているのかもしれない。その通りだった。有は一人ひとりの発言の内容を、間違って理解しないように慎重に考えてしまう。だから自分の意見を言うまでに時間がかかった。
「穂村、なんでさっき、いきなり席を立ったの?」
また急な話題転換。有は咄嗟に、嘘を吐いていた。
「あ……トイレに行こうと思って」
「ええ? 迷わずここに来たじゃん。嘘つくなよ」
亘が苦笑した。端正な顔だから、どんな表情をしても様になる。
「親の話はしたくなくて。本当は俺の親、中学のときに死んでるんだ」
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