reminiscence2『persona』

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 今まで誰にも言えずにいた言葉が、喉をするすると通って、口から飛び出てしまう。  口が勝手に動く。有にとって初めての経験だった。  ――ああ俺、誰かに聞いてほしかったんだ。本当は。  高校時代、狭く浅い関係だった友人たちには、家に親がいないことを言えずに三年間過ごした。担任の教師にも口止めするほどだった。彼らに同情されるのが嫌だったし、事故のことまで喋ったら、色々調べられたり、根掘り葉掘り質問されそうで、それが怖かったのだ。  でも、目の前にいる彼は、自分の話したことを何の固定観念も抱かずに聞いてくれるだろう。脚色することもない――そんな信頼感が、この日この瞬間、亘に対して芽生えた。  彼の表情は穏やかだった。優しい眼差しで、話の続きを促してくる。  有の胸の裡に、木漏れ日のように温かい空気が触れたのだ。
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