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大学三年の八月下旬。有は真紀に誘われて、大学近くの河川敷で行われる花火大会に出かけた。最初は楽しかった。土手にずらっと立ち並んだ夜店を眺めながら、前後を歩く人とぶつからないように歩いた。真紀とはぐれないように手を繋いだ。たまに出現する蚊柱にまんまとはまり、腕を蚊に刺された。有はTシャツにジーンズ、真紀は浴衣を着ていた。
たこ焼き、イカ焼き、缶ビールを二缶購入している間に、花火が始まる十五分前になった。そろそろ場所取りをしようと土手の叢の、まだビニールシートが敷かれていない場所に荷物を置いたときだった。
「穂村」
呼びかけとともに、肩を叩かれた。声で誰なのか分かった。後ろを振り返ると、思った通り、亘がそこにいた。――最近付き合い始めたばかりの彼女も。
有よりも先に、真紀が素早く反応した。
「なんだ、怜美ちゃんも来てたんだ」
亘の彼女と真紀は、大学で同じゼミ、同じサークルに入っていて仲が良かった。彼氏そっちのけで、真紀が怜美と喋り始める。
手持無沙汰になって、有は亘に話しかけた。
「石動も花火観るの好きなの?」
「それほどでもない。行こう行こうってしつこいから」
彼は視線を怜美に向けた。
彼女は白地に朝顔の挿絵が描かれた浴衣を着ていた。亘の服装はポロシャツにジーンズという普段着だったが、身綺麗な感じがした。付き合いはじめのカップルっぽい。
「そろそろ行こうよ」
怜美が真紀との雑談を止めて、亘の腕に指を絡めた。
「ああ、俺たち違うところに場所取ってるんだ。穂村、またな」
「真紀ちゃん、またね」
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