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ふたりは手を振って、さっさと傾斜のある土手をのぼり、より人気のあるゾーンへと歩いて行った。
すぐに花火の打ち上げが始まったが、有のテンションは、先ほどよりもだいぶ下がっていた。花火は好きだ。今夜は風も強くないし、花火にうってつけの日だと思った。
体育座りをして、ぼんやりと空に浮かんだ火花を鑑賞していると、隣に座っていた真紀が、「元気ないね」と声をかけてくる。
「そんなことないよ」
上空では、目と口が付いた星が時間差で一個、二個と描かれていく。が、すぐに煙になって消える。
「ついていきたかったの?」
「え?」
有は首を捻って、真紀の横顔を見た。
「ついていきたかったの? って聞いたの。石動くんの背中、名残惜しそうに見てたから」
真紀の声にはふざけた色が一切なかった。至って真面目な口調だった。
「なんだよ、それ」
咄嗟に出た声は、自分でもわかるほど掠れていた。
「一緒に花火を見たい相手は、私じゃないでしょ」
やけにしっかりした声で、はっきりと言われる。
「さっきので確信した。ずいぶん前から上の空なことが多くなってたけど」
花火が打ち上げられるペースよりも早く、真紀が今までの不満をぶちまけてくる。
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