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ここに来るのにアポは取っていなかった。突然の訪問にも、嫌な顔ひとつしない伯母に、安堵と罪悪感が生まれる。
――疑っちゃ悪いんじゃないか?
亘はこの伯母を黒だと断定していたが。
「ぼうっとしてないで早く入りなさいよ。夕飯食べてないでしょ? ちょうど有ちゃんの好きなカツカレー、作ってあったの」
「いや――すぐにお暇しようと思ってるので」
腕時計を見て時間を確認すると、もうすでに十九時を過ぎていた。ここから自宅まで電車で一時間半かかる。長居はできない。
「そんなこと言わないでよ。せっかく来てくれたのに。泊って行けばいいじゃないの」
そういって、伯母は小走りになって台所に向かった。有はその後ろをついていった。
伯母は鍋の中身をお玉でかき混ぜたあと、ガスコンロに火を点けて、有のほうを振り返った。
「で、どうしたの? なにか話があって来たんでしょう?」
有は愛想笑いを浮かべて、即答を避けた。年季の入ったダイニングテーブルに着席する。と、伯母が麦茶の入ったコップを有に渡し、向かい側の席に座った。
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