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「あの子のほうが怪しいかもね。遺品がある部屋にあの子がいたのよ。段ボールのなかを物色してた。私に見つかって慌てて部屋を出て行ったけど」
「いつ頃ですか、それ」
「ええとね……それは……去年じゃないわね。一昨年だと思う」
さすがに一昨年の何月かまでは覚えていないらしい。伯母が歯がゆそうに顔をしかめ首を傾げている。
一昨年、というのは信ぴょう性があった。有と真紀はこのころ付き合っていた。部屋にも呼んでいた。
「とにかくね、その子を問い質せば吐くと思うわよ」
「じゃあなんで、その現場を見たときに俺に教えてくれなかったんですか」
「だって有ちゃん寝てたみたいだし……朝早かったから。あとね、私もまあ、勝手に有ちゃんの部屋に入っていたわけだから」
神妙な顔をして、伯母が頭を下げた。
「ごめんなさい。悪気はなかったのよ。ちゃんとご飯食べてるかな、とか部屋が汚れてないかな、とか気になったのよ」
「だったらふつうに訪ねてくれればいいだろ。合鍵も勝手に作ったんですよね?」
ふつふつと怒りが湧いてきた。自分の違法行為を、親切心ゆえと強調する彼女に、嫌悪感まで覚える。
「何回俺の部屋に入ってるんですか」
有の問いに、伯母は律儀に反応した。指を折って、部屋に入った回数を数えている。その悪びれない態度に、有の緊張はぷつりと切れた。脱力感に襲われる。
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