Doubts beget doubts.

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Doubts beget doubts.

 有がマンションに帰り着いたのは、午後九時を回ったころだった。 玄関のドアを開けて三和土を見る。亘の靴がないことにほっとして、そのことに後ろめたさを覚えた。だが考え事をしている暇はなかった。 手洗いうがいもせずに自室に直行した。部屋の角にある黒いキャビネットの前に立ち、鞄から財布を取り出し、小銭入れを探った。硬貨に紛れて入っている一センチ強の鍵を摘み、それを一番上の引き出しの鍵穴に差し込む。 あるに決まってる。そう思いながら引き出しを開けると、目当ての物がすぐ視界に入ってくる。鍵一本とカード一枚。銀行の貸金庫を開ける鍵と、貸金庫室に入るときに必要な入館証だ。  自然と、細い息が有の口から流れ出た。 「やっぱりあった」  自分の声が空しく室内に響いた。芽生えた罪悪感は、こんな言葉では打ち消すことができない。 ――ちゃんと通帳はしまってるわよね?  伯母の部屋を出るとき、彼女に念を押された。 ――絶対誰にも分らない場所に保管しておくのよ。  そうでもしないと誰かに盗まれる、とでもいうように。     
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