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divergence
翌朝、有が目を覚ましたときには、隣に亘の姿はなかった。枕元のスマホで時刻を確認する。六時半。いつもアラーム設定をしている時間は七時だ。有は慌ててベッドから下り、リビングルームへと走った。廊下と部屋の仕切りドアを開けたとたん、コーヒーの香ばしい匂いが漂ってくる。
「あ、有。おはよう」
亘はテーブルに二人分の朝食を配膳していた。まだパジャヤマ姿だ。有は少しだけほっとした。
「おはよう。今日は早いね」
「今日も朝から展示会の場所決めがあるんだ。ごめんな、今日も帰りが遅くなる」
申し訳なさそうに言いながら、亘が有の前までやってくる。
「せっかく寝室を一緒にしたのにな。ぜんぜん触れ合えてない」
わざとっぽく肩を落とす亘に、有は笑って見せた。
「しょうがないよ。こうやって朝顔見れるだけで嬉しいし」
早く起きられて良かったと思う。アラームが鳴るまで寝ていたら、こうして亘と顔を合わせられなかっただろう。
「そういってくれると助かる」
亘が微笑んで、有の頬に自分のそれを寄せてくる。嬉しくなって有が目を細めると、今度は唇にキスをしてくれる。
三秒後、どちらともなく唇を離す。
「今日は歯磨き粉のにおいがしない」
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