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a colleague at work
会社のデスクに戻ったとたん、隣の席の藤崎が声をかけてきた。
「穂村ぁ。さっき俺、見ちゃったぞ」
有の秘密を握ったかのように、彼は得意気な顔をしていた。肘で有の腕を突いてくる。
「何をですか」
「さっき『カベルナ』で女性と一緒にいただろ? 彼女か? かわいい子だった」
興味津々といった様相で、藤崎が椅子を寄せてきた。
「うちの会社の子じゃなかった」
さすが人事部のデキる男だ。彼はここ自社ビル内で働く従業員はもちろん、他社に出向している正社員や派遣社員の顔と名前も、合致させて覚えている。その人数は五百人を軽く超える。入社七カ月の有は、まだ半分程度しか覚えていなかった。
「大学のときの友人です。彼女の会社がここから近いんでたまに昼休みに会うんです」
「そうなんだ? てっきり彼女かと思った。ルームシェアの相手かなと」
「藤崎さん」
有は慌てて彼の声を打ち消した。
前言撤回。従業員のプライベートなことを、ひと目がある社内でべらべら喋るなんて、人事部の守秘義務に違反している。
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