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亘がふっと笑った。
「実はさ、有の使ってる歯磨き粉、あんまり好きじゃないんだ。においが」
「え?! そうなの?」
そんな風に思われていたなんて驚きだった。 軽くショックだ。よく朝の歯磨き後にキスをすることが多かったから。
「じゃあ、歯磨き粉変えるよ」
別に、今使っているものに拘りがあるわけではない。ドラッグストアで安売りしていたから買ったのだ。
「あ、わざわざ買わなくてもいいよ。俺のやつ使って? 有が嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ」
亘の言葉の端々に、有に対する気遣いが感じられる。彼の眼差しは、朝の忙しい時間でも優しく穏やかだ。
「亘、今度の休み、ちょっと話せないかな」
ゆっくり話す時間が取れるのは土日だけだ。
「どうしたの? 真面目な顔して」
亘が不思議そうに首を傾げた。
「いろいろ聞きたいことがあって」
「わかった。土曜日は休日出勤するかもしれないんだ。でも日曜日は必ず休むから」
ふたりは食卓に着き、朝食を食べ始めた。
食事中は、年末年始の休みがどれぐらい取れるか話し合った。有の会社は十二月二十八日から一月三日まで休みだった。一方亘は、大晦日まで仕事のスケジュールがぎっしり入っていた。
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