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「三が日はちゃんと休む。初詣、行こうな」
そういったあと、亘がコーヒーを一気に飲み立ち上がった。彼は五分もかけずにトーストと目玉焼きを食べ終えていた。
食器を持って行こうとする亘に、「いいよ、やっておく」と声をかける。
「今年行った神社にまた行く?」
今年の元旦に、ふたりはここから徒歩十分の神社に初詣に行ったのだ。
寝室に向かおうとしていた亘の体が、ぴたりと止まった。
「――覚えてるんだ? 一緒に神社に行ったこと」
亘が探るような目で有の顔を見つめてくる。
「覚えてるよ、もちろん」
忘れるわけがない。そのころ有は、亘に片思いをしていた。年末年始を一緒に過ごせて嬉しくてたまらなかったし、彼と一番仲の良い友達になれたと有頂天になっていた。
亘は他の友人からもカウントダウンパーティーの誘いを受けていた。それを断って有のマンションに泊りに来てくれた。かき揚げが載ったカップ蕎麦を食べながら、『ゆく年くる年』を一緒に見たのだ。
「じゃあ、神社で俺がお願いしたことも覚えてる?」
「え?」
そんなこと知っているわけがない。何を願ったのか聞いていないのだから。
「あーその顔は覚えてないな」
亘が大げさに肩を竦めた。
「俺は覚えてるよ。おまえの言った願い事も」
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