cognitive psychology

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 藤崎が目を瞬かせ、有の顔を心配そうに見た。 「酒の飲み過ぎで記憶がなくなるってことあるんですか」 「あ? 酒? 泥酔するぐらい飲んだらなるかもな。なに? そういう経験があるのか」 「いえ――俺、いつもそんなに飲まないんですけど。というか、弱いんで乾杯の一杯を飲んだらもういいやって感じで」  そうなのだ。普段の飲み会では羽目を外して飲みまくるなんてことはない。もともと有はアルコールを受け付けない体質なのだ。飲むとすぐに顔が赤くなり脈が速くなる。缶ビール一本が気分よくなれるギリギリのラインだ。 「そうだよな。穂村は酒弱いよな」  藤崎が同意する。 「藤崎さんって心理学専攻でしたよね? ほかに記憶をなくす原因とか知りませんか」 「記憶、ねえ。認知心理学でやったなあ。エピソード記憶と意味記憶な」  藤崎が懐かしそうに言う。  ――認知心理学。  どこかで聞いたような――いや、文字を見たのだ。  有はすぐに思い出した。亘が手に持っていた本だ。『認知心理学・入門編』というタイトルの、分厚いハードカバーの本。彼に借りたものの、忙しくて一ページも読んでいない。 「物忘れが激しいとかか? 今のところ仕事に支障はないみたいだけど」     
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