counseling

4/5
前へ
/140ページ
次へ
「藤崎さん、ちょっと質問してもいいですか」 「なんだ? 心理学のことか?」  ちょっと嬉しそうに彼が聞き返してくる。 「はい。そうだと思います。思い出したい事を思い出すにはどうすればいいんですか。有効な手段ってありますか」  有は思い出したかった。大学の卒業式の日、飲み会で自分はどんな行動をとったのか。今年の一月、亘と神社でどんな会話をしたのか。 「そうだな――自力で思い出したいんなら、その経験をした場所に行ってみるのが良いよ」  得意げな顔をして藤崎が言う。 「それで思い出せなかったら、その場に居合わせていた人間に聞くとかな」  そうですね、と有が頷いたときだった。会議室のドアをノックする音がした。 「八時半からここ、予約してるんだけど」  ドアを開けて、営業の男が三人ずかずかと入ってくる。  有と藤崎は慌てて立ち上がり、一言謝ってから会議室を出た。  人事部のある総務ブロックに戻ると、まだ残業している社員がまばらに座っている。藤崎と話の続きはできない。もう少し相談したかった気がするが仕方ない。有は自席で帰る支度をし、藤崎に「お先に失礼します」と声をかけた。有はこのあと、寄りたい場所があった。 「穂村、ちょっと待て」     
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

692人が本棚に入れています
本棚に追加