幸せのレベル

method of location

　有は会社の最寄り駅――地下鉄有楽町駅まで歩き、帰る方向とは逆の電車に乗って渋谷駅に向かった。
　ハチ公前を通り、人を避けながらスクランブル交差点を渡り切ったところで、有は時刻を確認した。ちょうど二十一時になったところだった。
　有の目的はひとつ。三月に飲み会が行われた居酒屋「たんとたべ」から、ラブホテル「いちごみるく」までのルートを辿ってみることだった。そうすれば何か思い出せるかもしれない――一縷の望みをかけた行動だった。
　若者向けのファッションビル入口には、制服姿の女の子が屯していた。彼女たちは皆、髪の毛を茶色く染め、短いスカートを履いている。ナンパ目的らしいチャラい格好をした男が周りに数人――大学生のころ、この道をよく通ったので、こういう光景は見慣れていた。
　建物の裏にある細い道を歩いていくと、目当ての居酒屋が見つかった。雑居ビルの三階だ。有は玄関口の透明なドアを開けて中に入った。後ろ手でドアを閉めようとしたが、ふいに聞こえてきた男の声のせいで、動きが止まった。亘の声にそっくりだった。慌てて振り返り、ドア越しに外を見る。