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亘は慌てて体の向きを変えた。
「すみません、ゆうみさん! すぐ行きます」
そう叫びながら、彼女がいる方へと亘は走って行ってしまった。
――ゆうみって。下の名前を呼んでるのか。
有は職場の女性を苗字で呼ぶことにしている。多少仕事以外の話ができる相手に対してもその姿勢は崩さない。それがオフィスでの常識だと思っていた。
亘にとって、女性を下の名前で呼ぶことは大したことじゃないのかもしれない。だが有は気になった。とても嫌だった。
コートのポケットからスマホを取り出し、亘にLINEでメッセージを送った。
『やっぱり一緒に帰れない。用事があるから』
有は居酒屋の入ったビルから離れ、道玄坂のホテル街にある『いちごみるく』を目指した。
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