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――でも、俺のことを考えながら自分でしてたこともあったし。
一か月前、「ゆう、ゆう」と言いながら、亘は自慰をしていた。
――本当に俺のことだったのか?
さっき会った亘の同僚は、「ゆうみ」という名前だった。もしかしたら、彼女を思い浮かべて――。
有は完全に自信を失っていた。亘に対して不信感も抱き始めている。
有が所々記憶を失っているということを、亘は知っていたはずだ。なぜ言ってくれなかったのか。それだけじゃない。伯母と会ったことがあるのに、会ったことがないと嘘を吐いている。
彼が奨学金で大学に通っていたことも知らなかった。三人兄弟だということは教えてくれていたが。
――なんかもう、疲れたな。
もう別れる覚悟をして、とことん亘を問い詰めた方が良いのかもしれない。
有がその方向に気持ちを固めたときだった。ベッドに投げていたスマホがぶるぶると振動した。画面を見ると、亘からの着信だった。慌てて電話に出たとたん、テレビから感極まったような叫び声が聞こえてきた。
テレビ画面では、いっちゃういっちゃう、と連呼しながら女が腰を揺らしていた。
有はリモコンでテレビを消した。暑くもないのに額に汗が浮かんだ。
スマホを耳に当てると、亘の冷めた声が聞こえてくる。
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