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「今の声なに?」
「あ――今のは、テレビの音だよ」
嘘ではないが、後ろめたいものがあった。
「今どこにいるんだよ。家じゃないよな?」
――俺、なにやってるんだろう。
空回りばっかりしている自分が情けなかった。最初から自分の思ったことをはっきり言えばよかったのだ。こんなにウジウジしていないで。
「今ひとりで、道玄坂のラブホテルにいる。いちごみるくってところの二〇二号室」
有が言い切ると、スマホから亘の息を吸う音が聞こえてきた。
数秒の沈黙が流れたあと、亘が話し出した。
「待ってろ。すぐにそっちに行くから」
亘の声音は固かった。なにか決意したようにも、緊張しているようにも取れる。
有は予測できなかった。自分たちが一時間後、どうなっているのかを。
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