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亘が不自然に言葉を切った。この話題を早く終わらせようとするように。
「俺たち、ちゃんとできたのか?」
できなかったから、亘は話すことを躊躇っているのではないか。
「やっぱり男の体が嫌で」
「違う」
有の科白を、亘が遮った。声は荒んでいた。
「俺たちはちゃんとできた。一回じゃ足りなくて宿泊に切り替えたぐらいだ」
亘がジッと、有の目を見た。嘘ではないと訴えようとしているかのように。わざとらしい目つきだと感じるのは、自分が彼に不信感を抱いているせいか。
――聞く相手はちゃんと選べよ。
不意に、藤崎から言われた言葉が蘇る。
――亘は嘘を吐くような奴じゃない。
だけど話してくれなかった。有が忘れていることを、彼は教えてくれなかった。
「でも――やったわりには、体は辛くなかったし」
「初めてじゃなかったからな」
亘が当たり前のことのように、さらっと言ってのける。有はすぐに反応ができなかった。
――初めてじゃないって。
「あの日は三回目だった。ちなみに、一回目は去年の八月十日、二回目は八月二十八日」
「嘘だ」
覚えていない。八月に亘としていただなんて、信じられない。
「嘘じゃない。二回目のときは有の部屋でしたんだ」
「俺の部屋?」
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