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シュルっと、ネクタイを解く音がする。その刹那、亘が立ち上がり、服を脱ぎ始めた。
有が顔を上げると、亘と視線が絡んだ。彼の目に欲望が孕んでいるのかは察知できない。
有はどんな顔をすればいいのか分からなかった。亘と、したかった。彼と付き合う事になってからずっと。
――でも、こんな形でするなんて。
「ほら、有もさっさと脱げよ」
上半身裸になった亘が、有の腕を引っ張り立ち上がらせる。
「したいんだろ?」
したいけれど、こんなのは違う。
「有」
亘の声に苛立ちが混ざった。手首を掴まれ、そのままベッドへと導かれる。有は抗えなかった。
ベッドに上がったとたん、有は仰向けにされた。亘の体がのしかかってくる。重い。
ふたりには体格差があった。亘は有より十センチちかく身長が高く、横幅も広い。有は細身で筋肉もあまりない。
左腕は亘の手によって固定され、動かせない。両脚も同様だった。亘が体重をかけて押さえつけてくる。身動きが取れなかった。
キスは性急だった。軽いキスは省略され、口内にすんなり入ってきた舌は、縦横無尽に暴れまわった。舌が絡まっても甘い感覚は訪れない。唾液が苦いとさえ感じた。
「わ、わたる、やっぱり無理だ」
有は亘の左肩を右手で掴み、必死で体を離そうとした。
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