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「桐谷(きりたに)先輩、卒業したら北海道へ行っちゃうって、本当ですか?」
夕暮れの、二人きりのバスケットボール部の部室で、俊(しゅん)が桐谷に聞いてきた。
「……俊……」
「本当なんですか?」
大きな瞳に涙を浮かべ、桐谷を見つめてくる一つ下の誰よりもかわいい後輩。
彼のこんな悲しそうな顔を見たくなくて、ずっと言いだせないでいた。
「親父の仕事の都合でね。家族揃って北海道へ行くことになって。……オレも向こうの高校へ進学する」
「先輩、やだ。そんなに遠くに行っちゃうなんて、やだ……!」
「北海道なんて飛行機であっという間だよ。大きな休みには遊びにおいで。向こうはきっと自然が多くて綺麗だよ」
「やだ、行かないで。桐谷先輩……先輩……」
俊の瞳からとうとう大粒の涙が零れ落ちる。
「泣くなよ、俊。おまえに泣かれたら、オレ、どうしていいか分からくなっちゃうよ……」
「先輩……」
「きっと戻ってくるよ。高校を卒業したら、ここへ、俊の傍へ。絶対に」
そして、桐谷は俊の唇にそっと自分の唇を重ねた。
……約束のキスだった……。
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