思い出の町

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 桐谷は警視庁の刑事で、二十八歳である。  すらりとスリムな八等身の長身、きたえられ体に、やや冷たげな端整な美貌を備えた青年だった。  スーツを颯爽と着こなし、刑事というよりもホスト、あるいはモデルや俳優でも通じるかもしれない。 「聞き込みに行っても、女性は全員、桐谷くんに見惚れてしまいましてねぇ。私なんて、『おじさん、いたの?』なんて反応されますよ。イケメンっていうのは、どんな職業についても得ですな」  桐谷よりも二十近く年上の秋川はいつも、同僚にそんなふうにぼやいては笑っている。 「うちの所轄で殺人事件を追うなんて、めったにないからね。なんとか犯人をあげたいけど、おそらく無理だろうな」  定食についていたコーヒーをすすりながら言う秋川に、桐谷は苦笑するしかない。 「……それにしてもここらは、昔とあまり変わりませんね」  桐谷は呟き、秋の日差しが降り注ぐ窓の外に視線を投じた。 「え? 桐谷くん、この辺りに住んでたことでもあるのかい?」 「ええ。中学三年まではこの町に住んでました」
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