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パシャッと水の跳ねる音がして、自分に降りかかっていたはずの雨が止んだ。
「何してんのさ」
呆れた声でそう言われて、背後を振り返る。
その声の主は呆れた顔をして立っていた。
「まだ夏だけどさ、女の子なんだから、傘位差しなよ」
そう言いながら、持ってきていたのであろうフェイスタオルを被せられた。
器用に傘を持ちながら頭を拭かれ、ブツブツと小言を言っているのをただ聞き流す。
向こうもわかってるのだろう。
返事などしてないのに勝手に喋っているし、時折タオルの隙間から見える顔は、何が楽しいのか笑みを浮かべている。
「うん、こんなもんか」
どうやら満足。までは行かずとも、それなりに妥協できるまで拭えたみたいだ。
「何も聞かないからさ、とりあえず帰ろっか」
「…聞かないの?」
「話したくなったらでいいよ」
どうしてこの人はこんなに優しいのだろう。
勝手に嫉妬して、怒って、飛び出たのに。
宥めるように頭を撫でられて、視界に入った服の裾に手を伸ばした。
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