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6年つきあった彼と別れた。
理由は よくわからない。
彼にはいつも、他に恋人がいた。
私だけが彼といたことは、たぶん一度もない。
それでも彼は、毎晩 私の部屋に帰って来た。
深夜近く 眠るまえに。
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「和弥と寝たわ」
白い指の先のネイビーの爪。
煙草を挟んで火を点けながら藍月が言う。
藍月と出会ったのは、19になる頃。
高校を出て就職した職場だった。
今はもう、どちらも辞めてしまったけど。
付き合いはもう7年になる。
藍月がいいと感じて付き合うひとは
いつもどこか退廃的なひとだった。
友だちになる男のひとは、本や音楽に詳しい静かなひと。なにかの知識が深いひと。
恋をするのは、優しく自由なひと。
旅をするひとで、藍月を自然に「藍月」と呼ぶ。
だけど 他の誰の呼び方とも、彼の呼び方は違う。
彼は、ひとの名前を呼んでるんじゃなくて
そのひと自身を呼んでる。
目に移る部分も 心も。そういうひと。
藍月は彼を、密やかな深い奥に想いながら
退廃的な誰かを彼にする。
彼には決して、想いは告げずに。
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