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3
煙草を消して、ベッドに転がる。
指を開いて、部屋の電灯を隠しながら
ボルドーの爪を見た。
明日 塗り直さなくちゃ。
おばあちゃんのお葬式がすんで
一週間経って、実家から戻ってきた時
長く留守にした私を、冬人は責めた。
留守にしただけでなく
戻ってからバイトも休み続けたし、食事の支度もしなかった。
冬人の話も ロクに聞いてなかった。
『いつまでそうしてんだよ!
おばあちゃん、死んだんだろ!
なあ、もう死んだんだから』
『死んだ死んだ言われなくても知ってるわ!』
思わず怒鳴り返すと、冬人は
「もういい」と出て行った。
冬人が出て行くことは、しょっちゅうのことだった。何もめずらしいことじゃない。
少しのことでヘソを曲げて帰って来なくなる。
私の部屋を出て行ってる間は
他の彼女の家に泊まるか、3つ向こうの駅にある
自分の部屋で寝る。
つき合い出した19やハタチの頃は
冬人がこうして出て行く度に、泣いて引き止めてた。別れるのも嫌われるのも怖くて。
冬人は私の部屋に戻ってくると、自分の気がすむまで私に謝らせた。
まるで、王さまみたいな顔をして。
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