1 すだれ

2/12
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/536ページ
「なんだか名前がいまいちなのよね~」 冬子(とうこ)は父親に向かって言った。 家業である和菓子屋の屋号が『すだれ』である事に、いつものようにケチをつけた。 「だいたいね、『たれ』なんて、商売するのに付けないでしょ、普通はさぁ。こんなんじゃ商売垂れ下がる一方じゃん!」 「しょうがないだろう。もうずっとこの名前で商売してるんだから、今更ナントカ堂とかナントカ本舗とかに変えられないよ」 「お父さん、何代目だか知らないけど、もうそろそろこの店も今風にチェンジしちゃったら?いっそのこと、カフェにでもしちゃえばいいのよ。一体誰なのよ、『すだれ』なんて和菓子屋始めたのはさぁ」 「ひいじいちゃんかひいひいじいちゃんだろ。俺も知らね~よ」 「ふ~ん。私は絶対にこの先『すたれる』のが目に見えてる店は継がないからね」 「そんなのおまえに期待してね~よ。おまえは好きな事やってればそれでいいさ」
/536ページ

最初のコメントを投稿しよう!