1 すだれ

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二十一歳の冬子は、高校卒業後、家業である和菓子屋の手伝いをして暮らしている。今までバイトはおろか、他で働いた事は一切ない。 和菓子屋『すだれ』は、この辺りではなかなかの老舗で、他に此処といった和菓子屋がないおかげで、ご近所さん達には贔屓にされていた。 季節で変わる和菓子も人気だが、よそへの手土産として、ここ『すだれ』の和菓子を使ってくれる常連さんのおかげで、なんとか商売が成り立っている。 屋号の『すだれ』は、この家の苗字『須田』から来ているらしいが、冬子は「垂れる」とか「すたれる」のを連想させる屋号じゃ商売上手くいく訳がないと、常に思っていた。せめて『すだ屋』とか『和菓子すだ』でいいじゃんと、何かの折には父親に話しているのだ。
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