「たとえ、夢でも。」

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俺は息をのんだ。 彼の言うとおり、漫画家になるのが俺の夢だ。 けれど、本当に良いんだろうか。 今まで挫折に挫折を重ね、そろそろ真っ当な人生を歩んだ方がいいんじゃないかという気がしていた矢先。長年の夢を目前にして、俺は急に怖気付いた。またどこかで挫折して後悔するんじゃないだろうか。 「正登!」 返事をできないでいると、不意に詩織が俺の肩を叩いた。 「詩織…」 「正登、大丈夫だよ。だって『(おも)いは必ず実現する』んだから!」 「念いは……実現する?」 「そうっ」 詩織は向日葵のように、光に満ちた笑顔を俺にみせた。あぁ、俺はいつも。この笑顔に救われていたんだ。 「私がそうだったから。家が貧乏で、弟にもお母さんにも苦労させて。でも私はずっと念い続けたの。いつか絶対、美味しいもの食べさせるんだって。旅行にも連れて行こうって。笑顔が絶えない、明るくて幸せな家族になるんだって!」 「詩織……」 「もちろんいっぱい努力したよ。我慢もしたし貯金もした。家の手伝いも積極的にして、どんなに辛くても笑顔を絶やさないようにした。将来良い企業に勤めるために、勉強もいっぱいした。     
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