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ーー今日は特別な日だ。
だって夢が、
夢じゃなくなった日なのだから。
最初は、たとえ、夢でも。
念い続ければ、必ず実現する。
それを実感することができた、
夢のように特別な日が、今日なのだ。
「お待たせいたしました!」
店員が、食事を終えた僕らのテーブルに、ホールケーキを運んできた。
何本も立っている蝋燭には火が灯り、チョコレートのプレートで「おめでとう」の文字。
目に涙が滲む。これらも全て、詩織の計らいなのだろう。
三人でケーキを平らげた後、男は伝票を持って立ち上がった。
「じゃあ、僕はこれで。詳細はまた連絡するよ、小田切くん」
「本当に本当に、ありがとうございました!」
俺は何度も頭を下げ、彼を見送った。
彼の姿が完全に消えたのを確認してから、俺らも店を後にする。
「……詩織」
「うん?」
「ありがとう」
「えー?えっへへぇ~、何が?」
とぼける詩織が可愛過ぎる。くっそう、抱きしめたい。しかしいくら夜とは言え、ここは外だ。俺は詩織の手を強く握った。
「……ふふ、照れるなぁ」
「なぁ、詩織」
「なーに?」
「いい加減教えてくれよ。詩織はなんで俺を選んでくれたの」
「えー、またその質問?」
くすくす、と撫でるように笑う詩織。
「もう、言ってもいいかな」
どこか嬉しそうに俯きながら、彼女は語り始めた。
「……中学生のときだったかな。家がいちばん苦労してるときでね、私、お金がなくて友達と遊んだりすることもできなくて。
ふらふらーっと一人で街を歩いてたら、たまたま漫画の同人誌販売イベントをやっているのを見かけたの。
覗いてみたら、まだ私と同い年くらいの男の子がいて。他のブースには人がたくさん集まってるのに、そこだけ空いていて。
妙に気になって立ち寄ってみた。漫画なんて、読んだこともなかったんだけどね」
彼女は懐かしそうに、ふふっと笑った。
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