「たとえ、夢でも。」

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「その男の子はね、私が来るのをみるなりパァッて笑顔になって、目を輝かせて。 『10円です!』って、言ったの。 ……私ね、そのとき反省したの。 この子は、当たり前だけど10円が欲しくて漫画を描いてるんじゃない。本気で漫画家になりたくて、漫画を描いてるんだろうなって。きっとどんなに惨めでも、諦めずに努力して、夢を追い続けるんだろうなって。 それに比べて私はなんなんだろうって、その時思った。 私は迷いなくその子の作品を買った。 そして、感動したんだ。 初めて読む漫画に」 どうしてだろう、いつもより輝いているはずの星がぼやけてみえる。そのストーリーはね、と詩織は続ける。 「平凡な家に生まれ育った男の子が、神さまから『世界を幸福に導く』っていう使命を授かるの。 最初は『何で僕が』って疑問に思うんだけど、人を救っていくうちにその素晴らしさに気付いて、本当に世界を救うヒーローになっていくっていう話だった。 それを読んで思った。世界を救いたい、って思いながら生きてる人が、世の中のどこかに本当にいるんだろうなって。それならどんな凡人な私でも、自分の家庭くらい自分で救えないわけがないって。 ……だから、小田切正登さん」 詩織の濡れた瞳に見つめられ、ドキッとした。 「……はい」 「多趣味サークルで、あなたに再会したあの日。私は『運命だ』と思いました。改めて……」 暗くてもわかる。 彼女は顔を真っ赤にしながら震えていた。 「あなたのことが「好きです!」 被せるようにそう言って、 俺は彼女を抱きしめた。
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