「たとえ、夢でも。」

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話は逸れるが、誕生日といえば。 俺と詩織が付き合い始めた日は、俺の誕生日だった。知り合って間もないにも関わらず、詩織に告白されたのだ。 大学一年目、入ったばかりの多趣味サークル…わざわざ部活にするほどではない趣味をもっている人の集まりで、俺らは出会った。そのサークルでは、毎月、誕生日の人を祝うパーティーをやっていた。 料理が趣味の子がオードブルを、装飾が趣味の子が部屋の飾りを、カクテルが趣味の子が飲み物を担当する。そうして俺の誕生日も例に漏れることなく祝われた。 そのとき先輩の一人が、俺ら新入生にお決まりの質問を投げかけた。 「恋人いるの?」 首を横に振る俺の隣で、詩織が勢いよく手を挙げた。 「いません!でも好きな人がいます!」 サークルの男子たちはほぼ全員、詩織に魅了されていた。当たり前だ、詩織は容姿も性格もめちゃくちゃ可愛い。そんな詩織の「好きな人がいる」宣言を、先輩たちが喜ぶわけがなかった。 「そ…そうなんだ。どんな人?」 明らかに顔を痙攣(ひきつ)らせる先輩の質問に、彼女は威勢良く答えた。 「小田切(おだぎり)正登(まさと)くんです!」 「はっ?」 そう、小田切正登とは俺のことだった。 趣味、漫画を書くこと。 将来の夢、漫画家。 そんな俺は漫画オタクで、女の子にモテたことがなかった。彼女いない歴18年。 そんな俺に。彼女が。なぜ。 「小田切正登さん!私と!付き合ってください!」 ソッコーで断ろうと思った。どう考えたってありえないからだ。これは何かのドッキリか、そうじゃなければ夢を見ているのだと思った。 「いや、あの、俺は」 「宜しくお願いします!」 「ちょっと待ってよ、俺彼女とかいたことないし」 「初カノですか!?きゃー嬉しいっ」 「そ、そうじゃなくて」 「えっ…私のこと嫌いなんですか……?」 詩織は瞳を潤ませ、上目遣いで俺を見つめてきた。先輩たちからの「お前、詩織ちゃんを哀しませたら殺すぞ」という視線が刺さって痛い。 「いや…嫌いなわけじゃ」 「やったあ!お付き合い成立~宜しくね、正登っ」 そんなわけで俺たちは付き合うことになった。
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