「たとえ、夢でも。」

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それからというものの、懸賞に応募することが詩織の趣味になった。それもよく当てるんだ。 詩織の家の家電は殆ど懸賞で当てたものらしいし、温泉宿の宿泊券や旅行チケットなんかもしょっちゅう当てている。 しかし。 「懸賞が当たった」 ……俺はこの線もかなり薄い、と考えた。 詩織は懸賞に応募したものは、毎回俺に報告してくる。俺の最近の記憶では、近場のレストランの懸賞に応募していた覚えはない。さらに、詩織はまるで決まり事であるかのように、当たったら最初に「当たった!」と言うのだ。 今回は違う。 「今日は特別な日だから」。 単純に懸賞に当たったというわけではなさそうだ。 となると……。 考えられる可能性その4。 「俺が描いた漫画が入賞した」 冒頭でも述べたが、俺の将来の夢は漫画家になることだ。 俺が漫画を描き続ける理由。ベタだけれど、この乾いた世の中に感動を与えたいからだ。 詩織はそんな俺のことを、付き合い始めの当初から応援してくれていた。 ーーそういえば。 今日は月間少年漫画誌「Victory」の発売日じゃないか。 確か、今回発表の新人漫画コンテストに俺も応募していた。 入賞すれば同誌に掲載され、大賞をとれば漫画家デビューが決定する。 もしかして…… もしかして! 俺は考える人から一転、猛ダッシュで購買目掛けて駆けだした。 ちょうどお昼どきで混んでいたが、俺のあまりの形相に学生たちは驚き、モーセが海を割ったかのように道が出来た。あとは本棚まで一直線。レジを待つ時間も惜しく、手にしたVictoryをその場で開いた。
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