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「………ない」
現実はそう甘くはなかった。
コンテスト受賞作品紹介のページに、俺の作品はなかった。当然、ペンネーム兼本名でもある「小田切正登」の名前もない。
「は……はは」
わかっている。わかっているんだ。
俺には特別な才能があるわけじゃない。
ただ、漫画が大好きで。
一人でも多くの人に、俺の作品を手にとってもらいたくて。
知らない誰かに、感動や希望を与えたくて。
だからずっと、描いてきただけだ。
漫画を……そして、漫画家になるという夢を。
でも所詮、夢は夢でしかなかったのかな。
いつまでもこんな叶いもしない夢を追いかけ続けているから、お金もないし時間もないし、将来も定まらないのだ。
冷静に周りをみれば、同期の学生たちはスーツに身を包み、就職活動に励んでいる。
これが世にいう「潮時」というやつか…。
今から就活を始めても、間に合うだろうか?
俺は再度、月間漫画誌「Victory」の表紙を見つめる。何が勝利だバカヤロウ。敗北した俺に対する嫌味か?表紙を飾っているのは憧れの漫画家の作品で、「勝利の女神はすぐ隣」というタイトルだった。ここでも勝利か。くそっ!
心の中で散々小言を呟いてから、しかしそれを本棚に戻すことが出来ず…俺は結局レジに並ぶのだった。無論、昼メシは買い忘れた。
再び椅子に戻り、考える人のポーズをとり直す。
彼女の「今日は特別な日」発言の真相。
残された可能性は、あと一つ。
これが俺にとって一番受け入れがたく、しかし一番有り得そうな答えだ。
考えられる可能性その5。
「俺と別れる」
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