「たとえ、夢でも。」

5/15
前へ
/15ページ
次へ
「………ない」 現実はそう甘くはなかった。 コンテスト受賞作品紹介のページに、俺の作品はなかった。当然、ペンネーム兼本名でもある「小田切正登」の名前もない。 「は……はは」 わかっている。わかっているんだ。 俺には特別な才能があるわけじゃない。 ただ、漫画が大好きで。 一人でも多くの人に、俺の作品を手にとってもらいたくて。 知らない誰かに、感動や希望を与えたくて。 だからずっと、(えが)いてきただけだ。 漫画を……そして、漫画家になるという夢を。 でも所詮、夢は夢でしかなかったのかな。 いつまでもこんな叶いもしない夢を追いかけ続けているから、お金もないし時間もないし、将来も定まらないのだ。 冷静に周りをみれば、同期の学生たちはスーツに身を包み、就職活動に励んでいる。 これが世にいう「潮時」というやつか…。 今から就活を始めても、間に合うだろうか? 俺は再度、月間漫画誌「Victory」の表紙を見つめる。何が勝利だバカヤロウ。敗北した俺に対する嫌味か?表紙を飾っているのは憧れの漫画家の作品で、「勝利の女神はすぐ隣」というタイトルだった。ここでも勝利か。くそっ! 心の中で散々小言を呟いてから、しかしそれを本棚に戻すことが出来ず…俺は結局レジに並ぶのだった。無論、昼メシは買い忘れた。 再び椅子に戻り、考える人のポーズをとり直す。 彼女の「今日は特別な日」発言の真相。 残された可能性は、あと一つ。 これが俺にとって一番受け入れがたく、しかし一番有り得そうな答えだ。 考えられる可能性その5。 「俺と別れる」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加