「たとえ、夢でも。」

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気付けば午後の授業をすっとばし、夕方のゼミまで無断欠席してしまった。俺は完全に「考える人」の石像と化していた。ふと時計をみると18時を回っていた。こんなことなら漫画を描いていれば良かった……ってアホか俺。 はあぁ、と溜め息をついたところでスマホが振動した。詩織からのメッセージだ。 「予約は18:30だよ、お店待ち合わせで。遅れないでね!」 ……いつもなら大学で待ち合わせて、一緒に行くのに。 俺は2度目の溜め息をつき、重たい腰を持ち上げた。 指定された、高級感漂うレストランに辿り着いたところで、俺はまたしても疑問に思う。こんな高そうな店、懸賞で当たりでもしなければ絶対行かない。別れ話に詩織はなぜこんな店を? いや、もしかしたら最後の思い出作りと思い気を利かせてくれたのかもしれない。俺は意を決して、ドアを開けた。 「正登~こっちこっち!」 鈴のような声が響いたと思えば、店内奥の方で詩織がこちらに大きく手を振っている。 「お待たせ……って、え?」 テーブルまで向かった俺は、衝撃を受けて立ち尽くす。さすがにここまでは予想していなかった。詩織の向かい側の席に、スーツを着た知らない男が座っていたのだ。
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