「たとえ、夢でも。」

1/15
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

「たとえ、夢でも。」

「今日は特別な日だから、帰りに外食しよっ!」 「え、あぁ、うん」 詩織の突拍子のない提案に、 俺は思わず頷いた。 「もうお店予約してあるから!ゼミ終わったら連絡するね」 「あ、ああ」 「じゃっ!また後で」 彼女は白い歯を覗かせ、なぜか敬礼のポーズをとる。そして膝丈より少し短かいスカートを翻し、ピュウっと猫のように去っていった。 彼女が見えなくなったところで、俺は頭を抱えこむ。 「今日って…何の日だ……?」 同い年の詩織と付き合って2年半。 大学3年目の冬にして、その危機(ピンチ)は訪れた。 男という生き物は「記念日」に疎い。 それが原因で喧嘩になるカップルも決して少なくないだろう。 とりあえず考えよう。 まだ昼だ、ゼミが終わる夕方まで時間はある。 俺は大学会館内の椅子に座り、 「考える人」のポーズをとった。 考えられる可能性その1。 「誕生日」 ……ない。それはない。 俺は6月生まれ、彼女は7月生まれだ。 そして今は1月。さすがに早いだろう。 そもそも「誕生日は必ず当日にお祝いしよう」と、彼女は付き合い始めに言ったのだ。それから俺らは、互いの誕生日は必ず当日にお祝いしている。よって誕生日祝いではない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!