第五章〔イブレドの宿〕

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「ほら、ここんとこ、人が増えてるだろ、部屋が無いんだよ。」 考えが甘かった。行く所、行く所、全部満室で1部屋も空いていなかったのである。 だんだん薄暗くなって行き、街の外れまで宿を回ったが、やはりどこも満室だった。 僕は途方にくれ、街灯の下でしゃがみこんでいた。 「このままだと野宿決定だな…、チェスハの店に泊めてもらおうか…、でも料金高そうだし、なにより、ミウが怒るだろうし…」 僕は上を見上げ、街灯の灯りを眺めていた。 すると、僕の袖が何者かに引っ張られるような感じがした。 そして、隣を見てみると、7~8才ぐらいであろうか、小さな女の子が、僕の袖をつかんでいたのだ。 僕は少しビックリしたが、女の子に話しかけてみた。 「どうしたのお嬢ちゃん?迷子になったの?お父さんと、お母さんは?」 すると、女の子は首を横に振り、 「ううん、違うの。お兄ちゃんは迷子なの?」 逆に聞き返された。 「う~んとね、お兄ちゃんは、どこで寝ようか考えているんだよ。今日、ここに来たばかりだから、おうちが無くてね。」 「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、あたしの家で寝ていいよ。」 「は?」 僕は、女の子が何を言っているのかわからなかった。 「い、いや、だって、お父さんもお母さんも、迷惑だろうし…」     
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