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第二章 教会の仕事
ブッシュが人身売買組織の話を掴んできた翌朝。朝食後に、ブッシュとマリリアードはこのサーカス団の相談役であるラビと呼ばれる人物に相談を持ちかけた。
ラビと呼ばれるその人は、細身の男性で、白髪交じりの赤毛で、ブッシュの親ほどの歳だ。
「一体何の相談だい? まぁ、マリリアードの相談となると、毎回同じような気はするけれども」
皺が刻まれた顔に微笑みを浮かべているラビ。彼に、マリリアードがこう言った。
「どうやらこの街に巣くっている人身売買組織に、弟の手がかりが有る様なのです。
僕はひとりでも乗り込む覚悟はありますが、どうしたらいいのかラビに相談した方がいいと、ブッシュが言うので」
それを聞いて、ラビは頷く。少し考える様子を見せ、こう言った。
「この街には修道院が有るけれども、そこの力を借りるといいだろう。
僧兵の力を借りて、いざとなったら組織を取り押さえればいい」
ラビの言葉に、ブッシュは驚いたような顔をする。マリリアードも同様だった。
「でも、修道院がオレ達みたいなのに力を貸してくれますかね?」
訝しげな表情でブッシュがそう言うと、ラビはゆっくりとこう答える。
「教会側としても、この街に人身売買の組織がある事は好ましくないだろう。それを除く手助けをすると言うので有れば、いい顔をしなくても力を借りられるはずだよ」
ラビの言葉に、ブッシュとマリリアードは顔を見合わせる。お互い、いまいち納得がいかないという顔をしているが、確かに一理ある提案だった。
「お前が修道院に話をつけに行くか?」
ブッシュがそう訊ねると、マリリアードは首を振る。
「僕は行けません。この街の修道士で、僕の顔を知っている人が何人かいるので」
「そうか」
マリリアードの事情を汲んで、結局ブッシュが修道院へ話をつけに行くことになった。ブッシュの顔を知っている修道士はこの街には居ないからだ。
ラビの前から去り、自分達の部屋があるテントに戻るふたり。
ふと、マリリアードがこう言った。
「ああそれと、お願いがあるのですが、この街の魔女裁判の記録を調べていただけると助かります」
「魔女裁判?」
「はい」
きっと何か意図があるのだろう。その意図をブッシュはなんとなく察したけれど、口に出して確認する物でもない。にやりと笑ってマリリアードの依頼を受ける。それから、ブッシュは街へと出かけた。
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